2020年 マーガレット・クアリー(アンディ・マクダウェルの娘)主演。ジャーナリストのジョアンナ・ラコフの自叙伝「サリンジャーと過ごした日々」が原作。ロマンチックな雰囲気の作品ですが、大事なものが足りない気がしました。
あらすじ
90年代のニューヨーク。作家を夢見るジョアンナ(マーガレット・クアリー)は、
老舗出版エージェンシーでJ・D・サリンジャー担当の女性上司マーガレットの編集アシスタントとして働き始める。
ジョアンナの業務は世界中から大量に届くサリンジャーへの熱烈なファンレターの対応処理。心揺さぶられる手紙を連日読む彼女は、簡素な定型文を返信することに気が進まなくなり、ふとした思いつきで個人的に手紙を返し始める。
そんなある日、ジョアンナは、サリンジャー本人から一本の電話を受けるが……。
感想
かの有名な、隠遁作家のサリンジャー本人と、接点があったとは、なんという幸運でしょう。
主人公のマーガレットは「サリンジャーは、いかなるファンレターも読みません」という返信を、膨大なファンレターに延々と返事を出す日々だったが、あるとき心に刺さる文面に出会い、サリンジャーに成り代わって返事を書いてしまう。
さらにサリンジャーからの電話に出たときは、作家志望かと聞かれる・・。こんな夢のような体験をし、その後彼女は本当にものを書く人になりました。
ただしかしながら、映画にはセンセーショナルな場面がほぼ出てきません。
センセーショナルとは、必ずしも爆発や殺人を意味するのではなく、心の中のざわめきもそれに当たります。
どこにでもいる、ちょっと賢くて、夢想家の女性マーガレット。作家志望でありながらエージェントの仕事に就き、そのまま流されてしまうかもしれなかった彼女が、サリンジャーとの関わりや様々な小さな出来事によって、本当の自分の気持ちを見つけていく、というこの物語。
これは何も起きない話なのではなく、彼女の中ではライ麦畑の端から落ちそうになったのをキャッチされたような画期的な物語。
ただその表現が平坦なので、彼女の内面世界のイベントがあまり伝わらない。
1人の人間が何かを変えようとする時とは、その内面は計り知れないほど大きな爆発が起き、
厚い殻をバリバリ破り出るような瞬間があるはずです。
延々と空想で踊るシーンもいいけれど、そればかりでは足りない気がします。
サリンジャーとの電話での会話、そして読みふけったサリンジャーの作品。そして出会った人たちとの小さな事件。それらはいかにして彼女の生き方を変えたのか。
それこそが、映画のストーリーの肝。根幹です。
観客のsensation(感覚)に訴えるできごと、つまりセンセーショナルな何かが、小さくてもいいから絶対に必要でした。