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『日の名残り』映画のあらすじ&感想

1993年 原作:カズオ・イシグロ 主演:アンソニー・ホプキンス 原題:The Remains of the Day 原作の雰囲気を忠実に再現しつつ、物語の主題はちょっと違うようです。

あらすじ

1958年、オックスフォード。ダーリントン卿の屋敷で長年に渡って執事を務めてきたスティーブンス(アンソニー・ホプキンス)は、主人亡き後、屋敷を買い取ったアメリカ人富豪ルイスに仕えることに。

そんな彼のもとに、かつてともに屋敷で働いていた女性ケントン(エマ・トンプソン)から手紙が届く。20年前、職務に忠実なスティーブンスと勝ち気なケントンは対立を繰り返しながらも、密かに惹かれ合っていた。ある日、ケントンに結婚話が舞い込み……。映画com.

感想

映画と小説は非なるもの

小説「日の名残り」はカズオ・イシグロの代表作の一つ。一人称の語りで描かれ、その信頼できない語り手によって読者は物語の揺らぐ信ぴょう性に翻弄される、非常に巧妙な作りになっています。また、全編を通してメタファー(暗喩)の繰り返しで構成されており、そこには政治問題、人種問題など様々が絡み合い、すべてを理解するのは難解であると言われています。

それに対して映画「日の名残り」は、執事のスティーブンスと女中頭ケントンの淡い恋物語を、名優ふたりがその心の機微をどう演じるのかということに焦点を当てた、大人のラブストーリーに仕上がっています。

お屋敷の設え(しつらえ)などは忠実に再現されているように思えますが、その本筋は似て非なるものと言えます。

そうは言っても、深読みすればメタファー的な作りが浮かび上がるのですが、そこまでは必要ないと意識にストップがかかります。

なぜなら次第にラブストーリーの展開が忙しくなってくるから。

女中頭ケントンを演じているのはエマ・トンプソン。英国で女性の騎士号を許されたほどの大女優。そしてスティーブンスはエマとも多く共演しているアンソニー・ホプキンス。

2人の演技合戦は、恋愛というよりやや俳優同士の戦いの火花さえ感じてしまう気がしました。セリフがうますぎて、表情が細やかすぎて、原作小説のメタファーなんていつしか忘れてしまいます。

さあそのように映画化されるのはカズオ・イシグロの望むところだったのか、と思わなくも無いですが、考えてみたら暗喩を直接表現するほど野暮なことは無い。1930年代からのイギリスの貴族の館の雰囲気が、格調高く伝わってくるそれだけで十分だったのだろうと、視点を変えると思えてきます。

ひょっとしてイシグロさん的には、映画は小説のプロモーションビデオ的な・・位置づけだったりして。