あのとき見逃した映画は名作だったかもしれない
新旧の映画の中から
名作を掘り起こすレビューサイト
実話

『ゴヤの名画と優しい泥棒』映画のあらすじ&感想

2020年 原題:The Duke イギリス映画 ロジャー・ミッシェル監督の長編映画の遺作です。Dukeとは公爵、公のという意味合い。

あらすじ

1961年、世界屈指の美術館ロンドン・ナショナル・ギャラリーからゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれた。この事件の犯人はごく普通のタクシー運転手である60歳のケンプトン・バントン(ジム・ブロードペント)。

長年連れ添った妻(ヘレン・ミレン)とやさしい息子と小さなアパートで年金暮らしをするケンプトンは、テレビで孤独を紛らしている高齢者たちの生活を少しでも楽にしようと、盗んだ絵画の身代金で公共放送(BBC)の受信料を肩代わりしようと企てたのだ。しかし、事件にはもうひとつのある真相が隠されていた。映画com.

感想

どうしてこんなに適当な邦題がつけられたのか。確かにコメディ要素もあるが、そういうことではないですね。人生の機微をユーモラスに描いた佳作に対して失礼に近いかもしれません。

この映画は1961年に実際に起きた、ゴヤの「ウェリントン公爵」盗難事件の真相を、その家族の視点で描いています。

主役のジム・ブロードベント、妻役のヘレン・ミレンが安定のうまい演技で時間を忘れます。息子役のフィン・ホワイトヘッドは「ダンケルク」のひとだと後から気づきました。

この時代のイギリスの社会問題を背景に入れながら、長年の夫婦の間にあるささやかな隙間、息子たちの抱える現実、そして親子の絆・・95分の映画の中に人が誰でも直面するかもしれない問題がきちんと散りばめられ、そして解決のヒントをくれます。

さらに盗難事件の裁判のくだりは、観客を主人公に感情移入させることに成功しています。ここでダメ押しのようにジムとヘレンが実力をいかんなく発揮して盛り上げる。(ヘレン・ミレンはいろんな役を演りますが、この役は真骨頂かも)

洒落たオープニングで「意外といいか?」と思わせたこの作品。その予感が的中し、エンドロールで暖かい気持ちになったのは言うまでもないでしょう。

かねてから、ポスターを見れば「いい作品か」どうかがわかると思っていましたが、この映画については、まったくわかりませんでした。ただ一つ、予告編にひっかかるものが。法廷シーンの朗々としたセリフが「ん?」と心に響きました。

いろんなアンテナを張り巡らさないといい映画に行きつけないということですね。