2019年公開。2016年公開の「この世界の片隅に」に本来あったエピソードを加えた別バージョンの作品です。さらに感動がひろがります。
あらすじ
1944年、第二次大戦の真っただ中、18歳のすずは、広島から呉の北條周作のもとに嫁ぐ。兄弟の中でもぼーっとした性格のすずは、いつも空想しながら絵を書いているような女の子だった。
小姑の径子に怒られながらも、すずは持ち前のほんわかした性格で、毎日を明るく過ごしていた。
呉には軍港や造船所があり、戦艦や空母が入港する。そのため街は賑わっていたが、戦局が厳しくなると、その軍港は空襲の標的になった。
毎日のように爆弾が雨のように降ってきて、防空壕に逃げ込む日々。また、配給の食べ物も少なくなってきて、すずは何とか工夫して食事を作ろうとする。
失敗しながらも家族は暖かかった。そして、夫の周作もすずにはとてもやさしかった。
そんなある日、ふとすずは呉の遊郭街に迷い込んでしまう。偶然、りんという名の同じぐらいの女性と知り合った。
つらい過去のあるりんだったが、すずの描く食べ物の絵に喜び、ふたりは打ち解けて仲良くなった。
しかしそれからしばらくして、すずはりんと周作のある秘密を知ってしまう・・。
感想(少しネタバレ)
2016年の公開時に書いた感想では、「歴史に残したい作品」とありましたが、今回これをみて、さらにその気持ちは強くなりました。
まさに「後世に残したい作品」だと思います。
2016年版では、カットしてしまったエピソードを加えて、本来のストーリーとして完成形となった2019年版。これこそがほんとうの「この世界の片隅に」です。
3年前にもやもやしていた水原さんとのこと、「広島に帰る」と言い出した心理の底にあったもの、いろんなことがちゃんと繋がりました。
りんさんという薄幸の女性がすずに語りかける、「この世界に、そうそう居場所はなくなりゃせんよ」
ほんとうならそうだったはずだけど、そうじゃなかった。理不尽に落とされた爆弾によって、りんさんを含めた、膨大な数のそれぞれの人生が途切れてしまった。
家族も失い、故郷も失った人々は、それでも生きていく。自分の居場所を見つけていくのです。そうやって日本は今の日本になったんですね。
笑えるところも多く、時代考証もしっかりしているこの作品。ひとりでも多くの人に見ていただきたい。見逃す人がいないように。
道端の草を摘んでお味噌汁に入れ、芋粥を家族でありがたくいただく風景。
どんなに最悪の時でも、どうにかして日々を楽しみ、前に向かおうとする。「できることをするしかない」と雑草のように踏ん張り立ち上がる強さ。
これは日本人が完全に忘れてしまっていたことです。あのぼーっとしたすずさんに、でも芯の強い女性であるすずさんに、教えてもらいました。
最後に一言ネタバレ感想
私から見るとこの作品、ホラーだなというところも。お見合いで見知らぬ土地に嫁ぎ小姑にいびられながら苦労するが、夫は優しい。しかし夫にはかつて結婚したいと思っていた女性がいて、しかもすずさんが何もかもかなわないと思うような魅力的な人だった。これは女にとってはホラーです。
すずさんはこのあと力強く生きていくのでしょうが、心のどこかに、ちくっと小さい棘が刺さったままです。誰にもそういう素振りは見せずに。だから作り手である片淵監督もそのことには気づくことがないままでしょう。