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超大作

『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』映画のあらすじ&感想/3時間56分の大作

1997年 台湾映画 59歳で亡くなったエドワード・ヤン監督の集大成と言える作品。1961年に台湾実際に起こった14歳の少年による同級生の女子を殺傷した事件がモチーフになっています。

あらすじ

1960年の台北。中学生のスーは一家で中国大陸から渡ってきた外省人の子。昼間部の試験に落ち夜間部に通っていたが、そこは不良の巣であり、スーもいつしか不良たちと行動を共にしていた。

あるとき保健室でミンという女子と出会う。彼女は町の不良グループ「小公園」のリーダー・ハニーの恋人。彼はミンをめぐって恋敵を殺害し、台南に逃げていた。

可憐なミンに恋心を抱くスー。そしてスーの周りの不良たちと、街にはびこっていく台湾ヤクザたち。

貧しくても温かい家庭の中にいたスーだったが、ハニーが街にもどってきたときから歯車が狂い始める。ハニーは小公園と敵対する「217」のリーダーと和解しようとするが逆に殺されてしまう・・。

4時間あると聞いて、これは心して観なければ、と身構えましたが、あっという間に引き込まれ、気がつくと時間が経っていました。

1960年代の台湾の若者たち。戦後の混沌とした時代背景の中で、多感な時期の少年少女たちの青春の日々が描かれます。

闇と光を使った演出は、完璧としか言いようがないと絶賛され、半分は演技経験が無い俳優を起用していますがその自然な演技は夜間中学に通う若者たちの姿を等身大で表現することに成功しています。

授業が終わるとその時間、外は暗闇。どこまでも際限なく広がる闇の中で、少年たちは不安な心を打ち消すように、仲間に虚勢を張ります。

スーが盗んだ懐中電灯の光が、闇の中で少年たちの表情を鮮やかに浮かびあがらせます。

そして、ある意味魔性の女ミン。彼女の存在は少年たちの運命を左右するのですが、美人過ぎないところが逆に神秘的。

彼女の真っ白い横顔が闇の中で浮かび上がると、何かの魔力を帯びているようにも見え、そのあとに起こる悲劇を暗示しているようでもありました。

2017年にマーティン・スコセッシが設立した会社などによって、デジタル・リマスター版が制作されました。ほんとうに後世に残すべき作品であると私も思います。

これが映画なんだ、と心から思った作品のひとつ。そして観た後に深い余韻と残像が残る作品。この映画に何歳で出会うかによって、人生も左右されるかもしれない、と思う作品でありました。