2016年 イギリス・フランス・ベルギー合作。カンヌ映画祭パルムドールを受賞しました。日本の公式ホームページのキャッチコピー「人生は変えられる。隣の誰かを助けるだけで。」は映画みていない人が作ったの?
あらすじ
イギリスのある町で暮らす59歳のダニエル・ブレイクは40年間大工として働いてきた。妻を介護し見送ったのもつかの間、ダニエルは心臓病で倒れ働けなくなってしまう。
医師に働くことを止められたダニエルは、役所に給付金の申請に行くが、複雑なシステムについていけない。
一度決定したことを翻すためにはまた届け出が必要、それもネットからのみ、電話をしても自動応答で待たされ2時間繋がらない。役所の職員も事務的な対応で、どう考えても非現実的な規則を押し付けてくる・・。
そんなとき役所で知り合ったシングルマザーのケイティ母子をいろいろ助けてやるようになったダニエル。大工仕事で部屋を直してあげたり、食事をごちそうになったり。
そんな楽しい時間を過ごしても、母子の貧しい暮らしはどうにもならない。ケイティはまともではない仕事で稼ごうとしている。また、仲良くしている隣の青年が金もうけのためにニセのシューズを売るのも心配して見ているしかない。ダニエル自身もいまだに給付金はもらえず、腹立たしい日々が続くばかり。
あるときダニエルの怒りは爆発する。外に出たダニエルは、黒いスプレーで役所の壁に「私はダニエル・ブレイク・・」と書き始めた。
感想とネタバレ
どうしてあのキャッチコピーにしたのでしょう。ネタバレしますが、隣の人を助けても人生は変わっていません。そもそもダニエルは優しく明るい人なので、以前から誰かを助けて来たのです。
ですが、いくら優しさをさしのべて、心が温かくなったとしても、お金が無くては生きていけない、さらに悲しい出来事が待っている、というストーリーなのです。
それでもダニエルは人間としての尊厳を絶対に失わない。ダニエルは何があっても誇りを失ってはならないということを、大切な友人たちに手紙にして投げかけるのです。
ケイティが読み上げるダニエルの手紙。「わたしは、怠け者でも、詐欺師でもない。(略)・・人間だ。犬ではない。」
短い文面ですが、感動します。この映画は、隣の人を助けてほっこりする話ではなく、人間の尊厳について深く考えさせる映画なのです。
ダニエル役のデイヴ・ジョーンズはコメディアンだそうですが、どこにでもいそうな温かいおじさんを好演しています。またケイティ役のヘイリー・スクワイアーズの熱演も非常に印象に残りました。
まともな人たちが生きていくのに困っているのに、国のシステムが何の助けにもならないという、実際のイギリスにおける問題を、社会に問いかけているこの映画。日本のお役所においても、私は似たような経験をしたことがあります。
この映画の問題提起を、キャッチコピーに反映しなかったのは、そのほうがお客さんが入るからか? それとも何かほかの意図が?
「人生は変えられる」とは、そうだったらいいのに、と誰もが思う言葉ですが、この映画のメッセージとは少し違う気がします。
社会の歪んだ仕組みを暗に批判するこの映画。実は骨太の社会派作品でありました。