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『ファーザー』映画のあらすじ&感想/アンソニー・ホプキンスの演技力の凄さ

2020年 アンソニー・ホプキンスの演技と、フローリアン・ゼレールの見事な脚本に魅了されます。

あらすじ

ロンドンで独り暮らしを送る81歳のアンソニー(アンソニー・ホプキンス)は認知症により記憶が薄れ始めていたが、娘のアン(オリヴィア・コールマン)が手配した介護人を拒否してしまう。

そんな折、アンソニーはアンから、新しい恋人とパリで暮らすと告げられる。しかしアンソニーの自宅には、アンと結婚して10年以上になるという見知らぬ男が現れ、ここは自分とアンの家だと主張。

そしてアンソニーにはもう1人の娘ルーシーがいたはずだが、その姿はない。現実と幻想の境界が曖昧になっていく中、アンソニーはある真実にたどり着く。映画.com

感想すこしネタバレ

この映画、ただものではありません。

完全にやられました。

「思っていたのと違う映画ランキング」があったら1位です。

アンソニー・ホプキンス演じるアンソニーは認知症が進行している81歳の老人。もともとはエンジニアで知的な人物ですが、今は娘のアンとの会話も成立せず、介護ヘルパーさんに時計を盗まれた妄想で頭がいっぱい。

この映画はそんな彼の目線によって描かれていきます。つまり過去と現在、時間も日にちも順不同なのです。

人間の記憶というのは、脳の中で時系列で整理されています。今日一日なら、朝の出来事、昼の出来事、というように。そして昨日のこと、最近のこと、1年前のこと・・というように、順番に並んでいることで記憶として成り立っています。

ところが、その時系列がまったくわからなくなってしまい、そしてその人が物語を語る人物になったとしたら、おそらく滅茶苦茶なストーリーとなってしまいます。

それがこの「ファーザー」。

だがしかし、脚本の妙味はここからでした。アンソニーの記憶の中には正しいことも含まれていて、私たちに実は何が起こっているのかを、少しずつばらしていく仕掛けになっているのです。

さらにその見せ方はまるでサスペンスかホラーのように不穏な演出で私たちを戸惑わせます。

さすがアカデミー脚色賞。派手な演出など必要ないのです。新しいエンターテインメントの出現かもしれない。

映画というのはまだまだ伸びしろがあるんだなあ、やられたなあ、と感心した作品でした。

アンソニー・ホプキンスはアカデミー主演男優賞を獲得。それも授賞式の一番最後に発表されるという異例でした。

もともとこの作品は劇作家であったフローリアン・ゼレールによる戯曲で、フランスをはじめ世界中で上演され絶賛されました。そのゼレールの映画監督デビュー作が本作品です。

7年半、介護の経験がある私ですが、まったく身につまされる内容でもありました。

ゼレール監督はまだまだこのあといろんな才能を発揮されることでしょうね。楽しみです。