2023年 カンヌ映画祭パルムドール受賞作品。良いか悪いか、などと軽々しく批評できない、繊細で厚みのある作品。そして優れた人間ドラマだと思いました。
あらすじ
人里離れた雪山の山荘で、視覚障がいをもつ11歳の少年が血を流して倒れていた父親を発見し、悲鳴を聞いた母親が救助を要請するが、父親はすでに息絶えていた。
当初は転落死と思われたが、その死には不審な点も多く、前日に夫婦ゲンカをしていたことなどから、妻であるベストセラー作家のサンドラ(サンドラ・ヒュラー)に夫殺しの疑いがかけられていく。
息子に対して必死に自らの無罪を主張するサンドラだったが、事件の真相が明らかになっていくなかで、仲むつまじいと思われていた家族像とは裏腹の、夫婦のあいだに隠された秘密や嘘が露わになっていく。映画com.
感想
予告編からサクサクしたサスペンスを期待していましたが、まったく違いました。なぜあのように内容と違う予告編を平気で作れるのでしょう。
この映画、日本のサスペンスドラマのように、最後に刑事が種明かしをするわけではありません。
ですが、主人公をめぐる夫婦・家族の機微が非常に緻密に解き明かされるさまに、終始引き付けられてやみません。
裁判というある種滑稽でもある特異な状況において、「事実」というものは一体何なのだろうと思えてきます。
サンドラが弁護士に「私は殺してない」と言った時、弁護士は答えます。「それは問題ではない」
つまり、法廷における「事実」とは法廷の中の弁舌の応酬によって証明された事柄を指すのであると。会話劇に勝ったらそれが「事実」なのです。
要するに、物事は重箱の隅をつつきすぎると俯瞰でモノが見れなくなる、ということを言いたいのかな、と納得しエンドロールを迎えることとなりました。
また、カンヌで主演女優賞はのがしたものの、ザンドラ・ヒュラーの演技は圧巻としか言いようがありませんでした。
この人の深い演技があればこそ、この映画は成り立っていると思います。