2022年公開。全世界で1500万部以上売り上げた大ベストセラー「Where the Crawdads Sing」の映画化。ザリガニは鳴かないが、ここはザリガニたちが歌うのを感じられるような場所です。
あらすじ
ノースカロライナ州の湿地帯で、将来有望な金持ちの青年チェイスが変死体となって発見された。犯人として疑われたのは、「ザリガニが鳴く」と言われる湿地帯で育った無垢な少女カイア(デイジー・エドガー=ジョーンズ)。
彼女は6歳の時に両親に捨てられて以来、学校へも通わずに湿地の自然から生きる術を学び、たった1人で生き抜いてきた。
そんなカイアの世界に迷い込んだ心優しい青年との出会いが、彼女の運命を大きく変えることになる。カイアは法廷で、自身の半生について語り始める。映画com.
感想
どういうわけか批評家たちの評価は厳しいこの作品。理由はおそらく原作小説の筆致があまりにも素晴らしいためと思われます。
映画はチェイスの死体が発見されるところから始まり、犯人として逮捕されたカイヤが、湿地で1人で暮らすようなったいきさつが裁判劇の合間に挿入されていきます。
そこにこの沼地の自然が美しく描かれるのですが、原作小説には沼地が美しいだけではないということ、生物が生きるために残酷な営みをするということなど、動物学者の視点で詳細に描かれていることがらが、映画ではうまく表現しきれていない、という批評家の意見が多数です。
原作を読んでいない私から見ると、ロケ地のルイジアナ(原作はノースカロライナ)の湿地は十分に美しい場所だと思ったのですが、それだけでは足りないようです。つまりそれこそが、主人公カイヤの原点になるからです。
別種の雄をおびき出して食べてしまう蛍の雌。交尾が終わると雄を食べはじめるカマキリの雌。たとえばそんな描写が映像で必要だったか・・
ラブシーンが多くロマンチックミステリー映画となったこの作品。例えばヒトの交尾も生物の営みの一つという表現にできたらよかったのでしょうか。
しかし、生物の生態を緻密に映像化するのは、簡単なことではありません。技術も時間も相当なものでしょう。
この映画は作り手が小説をヒューマンドラマとして解釈し、そこをクローズアップしたのだとしたら、原作小説をベースにした恋愛ドラマであると私たちも受け止めるべきかもしれません。小説は小説、映画は映画なのです。
批評家の評価と一般大衆の感想に隔たりがあるということは、それはそれぞれの観ているところが違うということですので致し方ないことです。
評価はともかく、私はとてもいい作品だと思いました。俳優さんたちの演技もすべて良かった。何度も観返したい作品のひとつになったのは間違いありません。