2023年 是枝裕和監督 坂元裕二脚本 カンヌ映画祭脚本賞受賞。怪物だ~れだ、というCMが流れ、劇場は満員となっていました。
あらすじ
大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー(安藤サクラ)、生徒思いの学校教師(永山瑛太)、そして無邪気な子どもたちが平穏な日常を送っている。
そんなある日、学校でケンカが起きる。それはよくある子ども同士のケンカのように見えたが、当人たちの主張は食い違い、それが次第に社会やメディアをも巻き込んだ大事へと発展していく。
そしてある嵐の朝、子どもたちがこつ然と姿を消してしまう。映画com.
感想
羅生門スタイル
ひとつの出来事において、同じ時系列で、関係者それぞれの視点で描いていくことで、見方が微妙に食い違っていることを表す表現。
「怪物」はこの羅生門スタイルで描かれています。母親の視点、教師の視点、そして当事者である子供の視点。
ただこの物語には「羅生門」のように、最後に真実を語る人物は出てこず、結論は観客に委ねられています。
予告編にもありますが、火事のシーンがあります。この特徴的な画は、羅生門スタイルにおいて、何人かの視点の時系列がわからなくならないように、時計塔のような役割をしました。しかも火ってすごい特徴ありますよね。ずるいです。
脚本賞の重み
カンヌ映画祭脚本賞。日本の脚本家・坂元裕二が世界に認められました。登場人物たちの感情の細やかな表現は、セリフとセリフの間の余白にも詰め込まれているかのよう。
これまでの坂元作品にもあったような、「こんなこと確かにあるな」という場面にも「さすがうまい」と思わせます。
脚本賞を得たという事実によって、観客は無条件で脚本家側の立場に立つことでしょう。すべてにおいて、なるほどなるほどと称賛し続けて観るわけですが、そのことは映画を真っ直ぐな目線で観るのに邪魔になっています。
それはリスクに近いもので、でもそれがすなわち賞の重みなのでしょう。
怪物の正体は
よく言われているクエスチョンですが答えは観た方の胸の中へ。
観る人によって違うかもしれないし。
おまけ(ネタバレ)
まったく違う話ですが、前にNHKのドキュメンタリで小学3年生のクラスに密着し、イジメをなくしていこうと何人もの教師が奮闘するというのを見ました。
いじめ撲滅運動が効果をあげたと思われた番組後半のこと。ある一人の女子児童がふと漏らした「こないだ(イジメを)見たけど、私の口からは言えない」
このように8歳の児童が自分の立場を守ることを選択せざるを得なかった教室の中。ここには大人が決して解り得ないものが存在するのです。
いやそうじゃない。ある意味大人と全く同じ・・なんですね。
おまけ2(ネタバレ)
ラストの解釈については、いろいろ言われています。どうとらえるかはそれぞれの見方次第なのでしょうが、私は希望を持って観ました。
「希望を持って、今までの自分で走り出せばいい」というメッセージなのだと思っています。