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『生きる LIVING』映画のあらすじ&感想:黒澤明作品のリメイク

2022年 黒澤明の名作「生きる」のリメイク。ビル・ナイの演技が世界中から絶賛され、アカデミー主演男優賞にノミネートされました。

あらすじ

ロンドンの役所に勤務するウイリアムは、謹厳実直な人物。部下たちからは尊敬されているが、その仕事ぶりはまったく官僚にありがちな規則・前例にしばられた体質そのものだった。

そんなウイリアムズは医師から検査の結果を告げられる。末期のがんで余命半年から9ヵ月と。呆然となるウイリアムズは同居する息子夫婦にも言えず、翌日から仕事を休むようになった。

貯金を下ろし、夜の街で遊興にふけるが満たされることは無い。

しかしウイリアムスは偶然に元部下のマーガレットと出会う。おてんばな彼女のハツラツとした生き方に触れ、そうして自分の生き方を見つめなおす気持ちになるのだった・・

感想

作品を象徴するブランコのシーン

この重いテーマの作品。しかも黒澤明の[生きる]のリメイクとあっては並々ならぬ覚悟で制作されたのではないかと推察します。

オリバー・ハーマナス監督は、瑞々しい視点での解釈を加え、オリジナルに対するリスペクトも残しつつ、新しい「生きる」を作り上げました。

それを象徴するのは、あのブランコのシーン。

ビル・ナイは歌いながら遊び場のブランコにのっています。それを見た巡査は、「とても幸福そうだった」と話します。

このひとことで、私達は温かい気持ちになり、救われました。

名優ビル・ナイ

全編、抑えた素晴らしい演技で、その胸中を表現した名優ビル・ナイ。

彼は2度この歌を歌いました。1度目は余命幾ばくもないと知ったあと。非常に切ない歌声でした。

そして2度目は、あのブランコで。

若い部下のマーガレットに出会い「生きることなく人生を終えたくはない」と、今までの仕事ぶりから一転、市民の要望を聞き、小さな遊び場を完成させたウイリアム(ビル・ナイ)。

できあがった遊び場のブランコに揺られ、彼の歌声は美しく響くのでした。

ブランコのシーンの解釈は

死を前にした人が歌う歌。それが「幸福そうに」見えるのかどうか。

この解釈によって作品の評価は分かれると思います。

私は、映画というものは、観たあとに気持ちが救われるほうがいいと思っています。

そうしてこの日の帰り道、私はほんのり温かい気持ちになっていました。

それがこの映画のすべてかな、と思います。