2022年公開 主人公チャーリーを演じたブレンダン・フレイザーはアカデミー賞主演男優賞を受賞しました。ほぼチャーリーの部屋のみで展開する室内劇。それでも物語のスケールは大きく、深いと感じました。
あらすじ
大学のオンライン講師のチャーリー(ブレンダン・フレイザー)は、かつて恋人の男性を選び家族を捨てた過去があった。恋人の死をきっかけに過食になり、270kgもの体重になったチャーリー。心臓病を患った彼には、死期が近づいていた。
死ぬ前に別れて暮らす娘エリー(セイディー・シンク)との絆を取り戻したいチャーリーは、エリーに連絡を取る。しかし現れた17歳の彼女は、まるでナイフのように尖った性格になっていた。
それでもチャーリーはエリーの心を開こうと一生懸命話をするのだが・・
感想と考察
この作品、ブレンダン・フレイザーの復帰作として注目され、彼がアカデミー主演男優賞を受賞したことで、チャーリーそのものにスポットライトが当たる形になっていますが、あの部屋の中で私たちに向けて語られたのは、人生の移ろいとはこのように無情なものかということでした。
エリーは悪魔か
突然登場した毒舌の娘エリー。彼女は母親にも「邪悪」と呼ばれるほどの存在。まるで悪魔のようです。
そしてそれに対して宣教師のトーマスがまるで天使のようにふるまうが、実は彼も邪悪なものを背負っていました。
さらに、チャーリーの恋人アランはトーマスと同じ宗教に属していましたが、救われることなく命を絶っていたことがだんだん明らかになります。
元夫婦の会話
この物語に救いはあるのか、と心配していると、そこに元妻(サマンサ・モートン)が現れます。
夫婦だったころの妻との会話。これは原作者の実体験がなければかけないであろう会話でした。さらに元夫婦はまた諍いを始める。人間とは、このような生き物だと共感し、私はここで涙が出ました。
諍いの果てにチャーリーが口にするセリフ「一生に一度正しいことをしたい!」
この演技は素晴らしいという以外ありません。圧倒的なシーンでした。
リズ
ここまでの流れの中で重要な役割をしていたのが、アランを兄に持ち、看護師として献身的に世話をしてくれるリズ(ホン・チャウ)という存在。
はぎれよく端的な言葉でストーリーテラーのように、すべてを説明してくれます。リズのおかげでチャーリーの人間性も過去もよくわかりました。
それでもリズにはチャーリーの魂を救うことはできません。トーマスにもできません。チャーリーの今の心のささえはエリーを善に導くこと。
壮絶で美しいラスト
巨体のため立ち上がれないはずのチャーリーが最後に力を振り絞って立とうとします。心臓はもう限界に達し、いつ命の火が消えてもおかしくないのに、彼はエリーに作文を読ませ、それを聞きながら仁王立ちします。
それはエリーが書いた「白鯨」の感想文。チャーリーはすべて暗記するほどに大切に持っていました。
死が訪れようとする瞬間に、エリーの心は解きほぐされたのか。チャーリーは救われたのか。
はっきりさせないまま迎えるエンディング・・
でも一つだけわかる。チャーリーはその瞬間、海の音を聞いていました。かつて家族と行った海で聴いた音。波の音と、鯨の鳴き声を。
それによって救われたのは、おそらく観客の私たちだったかもしれません。