2012年公開 降旗康男監督 高倉健主演 これはかなりいい映画なのですが、往年の高倉健のファンにとっては物足りないところがあるみたい。でもこの作品は、私は日本人として誇れる作品だと思うのです。
あらすじ
富山の刑務所で刑務官を務める倉島(高倉健)のもとに、病気で亡くなった妻・洋子(田中裕子)から絵手紙が届いた。そこには「故郷の海で散骨してほしい」と書かれていた。倉島はワンボックスカーに乗って、洋子の故郷・平戸に向かう旅に出る。
飛騨高山、京都、大阪、竹田城、下関・・ 洋子との日々を思い出しつつ走り、そして旅の先々でいろいろな人たちと出会う。
妻を亡くした悶々とした日々を過ごしていた倉島だったが、この旅によって何かが変わっていくのだった・・。
感想
「妻に先立たれた男性の再生の物語」なのですが、実はとてもとても深い物語であります。
何度も見るうちにだんだん惹かれていくようになる作品。自分の中で作品がどんどん育っていくような、そんな映画だと思います。
「高倉健」の最後の作品、というくくりではなく、「高倉健」は出演者の1人として観てほしいと思います。
キャストの皆さんはほぼすべて良かった。ほぼっていうのは長崎弁が下手過ぎるなという人がいたのが残念なだけ。こういうところ意外に気にします。
草彅君も良かったし、もちろん佐藤浩市も素晴らしい。田中裕子の歌が泣けるほどいい。さらに余貴美子は天才俳優の1人です。なんといっても最優秀は大滝秀治さん。脱帽の一言。
この映画のキモとも言えるシーンの「久しぶりにきれいな海ば見た」は大滝さんのすべてが込められたセリフでした。この数分前の夕日の海のシーンが観客の脳裏にさーっと蘇ります。
それにしても高倉健という俳優さんは、無言のシーンがとてもいいです。何もしゃべらなくても後ろ姿でも何かを感じさせてくれます。
過去にはバイオレンスな映画が多かったけれど、この作品は最後を飾るにふさわしいと思いました。
忘れられないシーンのいくつか。長崎で妻の洋子さんの写真を見つけた古い写真館でのシーン。草彅君に「今夜はつきあいます」と言ったあの鋭い眼のシーン。
そして最後に颯爽と歩いていくシーン、黒い衣装を着ていましたがこれが似合う。こんなふうに立ち直って生きていくのだ、と思わせるラストシーン、これは良かった・・。
観終わった後に、よし私も生きていくのだ、とちょっと元気が出るような気がしました。
この映画は1度見ただけでなく、何度も見て初めて本当の価値がわかる作品ではないかと思います。派手さはないけど隅々まで作り込まれています。
こういう作品は日本人として誇りに思いたいです。