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『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』映画のあらすじ&感想/19年かけて作られたけど・・

2018年 製作開始からなんと19年を経て、ようやく完成したこの作品。17世紀の小説「ドン・キホーテ」をモチーフにして翻案されました。莫大な製作費をかけヨーロッパ全体で撮影される予定が、いろいろあって縮小されたり、キャストがどんどん代わったり、さんざんな運命をたどりました。

あらすじ

仕事への情熱を失っていた若手CM監督のトビー(アダム・ドライバー)はスペインの田舎での撮影中、謎めいた男からDVDを渡される。それはトビーが10年前の学生時代に監督し、賞にも輝いた「ドン・キホーテを殺した男」だった。

映画の舞台となった村が近くにあることを知ったトビーは、現地を訪れるが、ドン・キホーテを演じた靴職人の老人ハビエル(ジョナサン・プライス)が自分を本物の騎士だと信じ込むなど、村の人々はトビーの映画のせいですっかり変わり果てていた。

トビーをドン・キホーテの忠実な従者サンチョだと思い込んだハビエルは、トビーを無理やり連れ出し、冒険の旅へ出るが……。映画com.

感想

何を伝えようとしたのか

いちばんの根幹となる部分。それは脚本も書いた監督が、ドン・キホーテという作品の何に心を動かされ、そして私たちに何を伝えようとしたかということ。

よく言われているのは、スペインのミゲル・デ・セルバンデス原作の「ドン・キホーテ」は、ただの喜劇ではなく、批判精神に満ちた、人間の深い一面をえぐり出した作品ということです。

ではこのテリー・ギリアム版ではどうなのでしょう。ただ現代に置き換えただけなのか。それとも。

ME!、ME!、ME!

その答えはジョナサン・プライス扮するドン・キホーテが何度も言い放つセルフにありました。

「ME!、ME!、ME!・・お前はいつも自分のことばかりだ。」

その通り、現代人はみな自分のことばかり考えているのです。騎士道に傾倒し、人としての正しき道を貫くドン・キホーテ(だと思い込んでいる老人)は、正気を失っていても行いは正しいのです。

トビーの成長

映画は数々の奇想天外なトラブルがトビー(アダム・ドライバー)に降りかかり、やむを得ずドン・キホーテと行動を共にすることになるのですが、だんだんと人間としてのまともな行いに気付いていきます。

そのたたみかけるように襲い掛かるトラブルの数々は、「このあとどうなる?」と私たちを引き込んでいき、そこで放たれるあのセリフ「お前はいつも自分のことばかりだ」に、心がぶるっと感動しました。

クライマックスが消化不良

キテレツな出来事が、古城での仮装パーティで最高潮に達し、トビーは愛する人を見つけ、悪役も登場し、さあどんな締めくくりをドン・キホーテがやってくれるのかな、と期待が高まるのですが・・

そのクライマックスの筋書きは、それまでの盛り上がりからすると、ちょっと消化不良なところが。

正気を失った人の行いが正しく、そしてそれを引き継ぐように正気を失う者が・・という流れは悪くないにしても、その前にあっという仕掛けで観客の溜飲を下げてほしかった。

結構これは好きなタイプの映画だったので、そこだけがちょっと残念です。