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『耳をすませば』映画のあらすじ&感想/ 近藤喜文監督作品

1995年公開 天才・近藤喜文さんの唯一の監督作品。近藤さんは、火垂るの墓、魔女の宅急便、おもいでぽろぽろ、もののけ姫の作画監督としてスタジオジブリの黄金期をささえました。この作品を発表して2年半後に47歳で急逝されました。
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あらすじ

中学3年の月島雫は家族とともに東京郊外の坂の多い街に暮らしていた。読書好きの雫は、図書カードに毎回自分よりも前にその本を読んでいる人物「天沢聖司」という名前に気付き、まだ見ぬ相手にあこがれていた。

そんなある日、「カントリーロード」という曲の和訳の詩を自分で作っていた雫は、偶然詩を読まれてしまった別のクラスの男子に「これはやめたほうがいいよ」とからかわれ、「いやなやつ!」と怒る。

夏休みになり、雫は図書館に行く途中の電車で不思議な雰囲気の大きな猫に出会う。雫と同じ駅で降りた猫を追いかけて行くと、住宅街の中にぽつんとある「地球屋」という古道具屋に入って行った。店の主人にからくり時計や男爵の姿をした猫の人形「バロン」を見せてもらう雫。

すっかりうちとけ、また地球屋を訪れるのだが、なぜかそこにはあの男子が。彼は地球屋の主人の孫で、あの天沢聖司なのだった。

感想

前半の雫の友達たちとの会話や、クラスの男の子からの告白など、実に懐かしく可愛いな、と思います。原作では中学1年で、映画では中学3年なので、この差は大きく、自分と照らし合わせても会話が子供っぽいなと思いますが、ここは仕方が無いのでしょう。

中学生ですでに自分の将来を決めている天沢聖司くんや、勉強そっちのけになっている雫を理解する親など、自分の中学生時代と比べたら、なんて羨ましい設定だろう、と思います。

電車に乗って父親の勤め先の図書館に通ったり、猫に誘われてすてきな「地球屋」というお店も知り、またそこの店主がやさしくてサンタクロースのような人。

友達や同級生との関わり方も、主人公雫のまっさらでまっすぐな性格も、ああこうだったらどんなに良かっただろう、と思えることばかり。
最後もハッピーエンドで、見終わった後に、つまらない自分の悩みをすべてどこかへ持って行ってくれるような、自分がどの年代に見てもそう思えた映画でした。

近藤喜文監督は、スタジオジブリで宮崎駿さんや高畑勲さんと数々の名作を生みだしました。もののけ姫の作画監督で、最後の作品。監督としては最初で最後の作品となったこの「耳をすませば」は、公開時にはそれほどの話題にもならなかった記憶がありますが、少しずつ人気が高まり、映画の舞台と言われる京王線聖蹟桜ヶ丘駅はアニメの聖地となりました。

近藤監督を失ったことは、世界のアニメ界の損失だった、と私は思います。

映画の大事なところで出てくる「カントリーロード」は、オリビア・ニュートン・ジョンで大ヒットしました。ウエストバージニアの歌がこんなに日本の坂道に似合うなんて。この曲を選んだセンスも大したものです。

子どもの映画だ、と思って見てない方がいたら、それは人生を損しているぐらいに勿体ないと思います。