2019年 伊藤智彦監督 京都の主要な場所が聖地巡礼の舞台に。「この物語(セカイ)は、ラスト1秒でひっくり返る・・」というキャッチコピーそのままに、物語の解釈をめぐってネットが騒然となりました。
あらすじ
2027年 高校生の堅書直美(北村匠海)は何事にも自信が持てず、消極的な自分を変えたいといつも思っていた。そんなある日、直美のもとに「10年後のおまえだ」というナオミ(松坂桃李)がやってくる。
ナオミは、直美の生きるこの世界は、歴史の保存を目的としたシミュレータ「アルタラ」の仮想世界の中であり、このまま過去の史実に忠実に世界が進行すると、3週間後に同級生の一行瑠璃と直美は恋人同士になり、初めてのデートで行った花火大会で、瑠璃は雷に打たれて二度とめざめない、と言うのだ。
すぐには信じられない直美だったが、ナオミが瑠璃を見て流した涙を見た時に、直美はナオミの言葉を信じ、現実を受け入れるのだった。
ナオミはこれから起こることが書かれたノートを直美に託す。2人はなんとか史実の通りに瑠璃と恋人同士になるように策をめぐらす。まっすぐで自分の気持ちを表に出さない瑠璃と親しくなるのはかなり難しいことでもあった。
やがて2人の気持ちがだんだん近づいたとき、歴史を変えさせないよう修復プログラムの「狐面」が起動する・・。
感想
要するに、最後の1秒(ほんとうは数秒)でこれまで見て来た物語がすべて覆されるというつくりになっていて、そのラストの解釈を観客に委ねるという、クリストファー・ノーラン監督のような手工のアニメ作品なのですが、
主人公があまりにもがんばって、とちゅうで流れる髭男のイエスタデイにこちらも心躍りながら、ようやく最後に成し遂げて、ああよかった・・と思っていたらラスト数秒でくつがえる、っていう。
だけど実際は、人の心はそれほど柔軟ではないので、あれ?どういうこと?と混乱し、作者の仕掛けは成功したようですね。
ただし私は「こっちはこっちの世界でハッピーエンド。それでいい」と、あまり深く考えるのを止めてしまいました。
聞くところによると、もともとの企画の段階でのストーリーは全く違うものだったが、新海誠監督の「君の名は。」のヒットによって、企画の総てを一新せざるを得なくなった、ということ。
いったいもともとのストーリーってどんなのだったのでしょう。なんとなく気になります。
これだけの壮大な3DCG、手書きで丁寧に書かれた人物、幾重にも作りこまれたストーリー、それぞれ凄いのですが、どことなく咀嚼が足りないような気がしてなりません。
なぜだろう。声優さんたちも良くて、音楽も良くて、何もかも完璧に素晴らしいのに。
もしかしたらそれは、動機。ひとりの人を何十年も愛しつづけるなんて、ほんとうにできるのだろうか? 大人であればあるほど、そんな風に思ってしまいます。
それでも直美が河原で瑠璃のことを好きになる瞬間の描写は、ほんとうに素晴らしいです。あのシーンは、心がキュンとするとてもいいシーンです。
あのシーンをもっと大事にして、あれもこれも詰め込みすぎないほうが良かったんじゃないかな、と一般人の私は素朴にそう思いました。