1972年 フランシス・フォード・コッポラ監督 主演:アル・パチーノ この映画を語らずして近代映画は語れません。「素晴らしい」などという軽々しい表現では尽くせない。燦然と輝く映画の頂にある作品。アル・パチーノが初々しくしかも眩しく美しい。
あらすじ
イタリア・シシリー島からアメリカに移住し、巨万の富を築き上げたビトー・コルレオーネ(マーロン・ブランド)一族の跡目相続や、世代交代を謀る周囲のマフィアとの間に起こる抗争が重厚なタッチで綴られる。映画com.
感想
初めてこの映画を観たのはいくつの時だったのだろう。
それから何度も何度も観ていたはずですが、大人になってからちゃんと観たのは、実はこれが初めてでした。
フランシス・フォード・コッポラという名前を日本の片隅でも知らない人がいないほどに世界に知らしめた「ゴッド・ファーザー」
なぜそこまでになったのか。マーロン・ブランドだったからか、アル・パチーノだったからか。
子供だった私には、まったく何もわかりませんでした。しかし大人になってわかってしまった。この映画はすごい。1972年から何十年の歳月が経ってもすごい映画です。
今は当たり前のようになっているセピア色の画像。それによって、この物語が遠い世界で起きている絵空事だという感覚が生まれ、どんな殺戮もオブラートに包まれる。
格調高い色調の画像と、イタリアの作曲家ニーノ・ロータの郷愁をそそる調べによって「ゴッド・ファーザー」はそれまでのハード・ボイルドとは一線を画す、そして万人に受け入れられるマフィア映画となりました。
ストーリーの面白さや、マーロン・ブランドの名演も特筆すべきものではありますが、
もっとも印象に残り、また映画の後半を支配し、さらに映画のポテンシャルを高めたと言えるものはやはりアル・パチーノの存在でしょう。あの美しい黒い瞳と眼光。
ドン・コルレオーネの息子マイケル。大学を出て軍人となっていた彼が、運命の渦に巻き込まれるようにのし上がっていく様子はだんだん鋭くなるあの黒い瞳によって、そのしなやかな強さが印象付けられました。
なかなか決まらなかったマイケル役にアル・パチーノを推し続けたコッポラ監督。その眼力は大したものです。
意外なことですが、映画会社は当時あまりコッポラ監督を信頼しておらず、暴力的なシーンを入れろなどいろいろ口を出し、いつでも解雇できるよう副監督を待機させていました。
そんな中、本物のマフィアが嗅ぎつけて脅しをかけたりと、いろいろ大変だったようで、実は殺し屋の役などでマフィアの人たちも出演しているとか。
コッポラ監督はこの過酷な環境の中、撮影をすすめ、映画会社の意向も加味して「バイオレンス」と「色気」のシーンも取り入れました。(ほんとうはもっと叙情的な作品にしたかったようですが)その結果、ゴッド・ファーザーは大成功を納めます。
かくも映画というのは、まるで不思議な生き物のようです。嵐の中の船のような状況だったからこそ、あの生き生きとした作品が誕生したのかもしれない。芸術作品とはそういうものか・・とまたしても映画の深さを感じます。